自宅を守りながら債務整理していく方法

住宅ローンの支払いが滞ってしまうと,やがて抵当権が実行されてしまい自宅の所有権を失うことになってしまいます。そうならないためにも,借金の返済がきつくなってきたときには,早めに弁護士に相談をして,どのように対処するのが適切なのかアドバイスを求めるようにしましょう。早めにご相談いただければ,選択できる法的手段の幅がぐっと広がります。

この記事では,個人の相談の中でも件数の多い住宅ローン返済中の債務整理の方法について,債務者の経済状態等に応じた場合分けをして解説していきたいと思います。

1.任意整理の方法により自宅を守る

まず,債務者が,住宅ローン以外の債務についてリスケや将来利息のカットをすれば,住宅ローンの支払いをこのまま継続していくことができるという場合です。この場合には,住宅ローン債権者以外と任意整理の方法で交渉し,自宅を守りながら債務整理を行うことができます。

任意整理とは,裁判所や中立公正な第三者を介することなく債権者と直接交渉していく方法です。債務者の分割弁済の方法を調整してもらったり,将来利息をカットして債務総額を減額してもらったりすることで返済を容易にします。利息制限法を上回る金利で借り入れをしていたような場合には,利息制限法の所定利率で引き直し計算をして過払金を清算することもあります。

1.1任意整理のメリット

任意整理を選択するメリットとしては次のようなものが考えられます。

  1. 手続きが法律で定まっているわけではないので柔軟な交渉ができる。
  2. 手続きが複雑ではないので,弁護士費用も含めた費用を低額に抑えられる。
  3. 手続きが簡単なので,交渉期間も他の債務整理の方法と比較して短い。
  4. 一部の債権者のみを対象とできるため,他人に知られることなく手続きを進めることができる(密行性)。
  5. 手続の密行性が高いので,信用不安を可能な限り抑制でき,信用情報機関への登録年数も他の債務整理の方法に比べて短い。

このように,任意整理の方法は債務者にとって負担が非常に軽いので,選択できる経済状態であるならば積極的に活用すべき方法です。

1.2任意整理のデメリット

一方,任意整理を選択したときの主なデメリットは次の通りです。

  1. 対象とする債権者全員の同意を得なければならない手続なので,債権者数が多数に上る事件では調整が困難になる。
  2. 債権者と任意の交渉になるので,債務免除(一部免除も含む)の要請は基本的に受け付けてくれない。
  3. 債権者と任意の交渉になるので,リスケジュールも限度がある。基本的に40回程度の分割弁済で対応できないようであれば,任意整理の利用は難しい。

このようなデメリットがあるため,債権者数が多数に上る場合や40回程度の分割弁済によるリスケのみでは支払いの目途が立たない場合には,別の手段を考えていかなければなりません。

2.特定調停等で経営者保証ガイドラインを利用する方法

中小企業の債務を連帯保証している会社代表者は,会社の支払いが困難となり保証債務の履行を求められたとき,経営者保証ガイドラインを利用することで自宅を守りながら債務整理を行うことができる場合があります。

経営者保証ガイドラインは,多くの中小企業において行われていた経営者の個人保証の問題点(経営の責任を取ることを躊躇し早期の事業再生に踏み切ることができない等)を解消する目的のために作成されました。

経営者保証ガイドラインは,基本的に金融機関の保証債務を対象として行われるので,住宅ローンについては今後の収入等で継続して返済していける程度の経済状態であることが必要になります。

2.1経営者保証ガイドラインを利用する要件や手続

経営者保証ガイドラインを利用するためにはいくつかクリアしなければならない要件があります。重要なものを何点か挙げておくと次の通りです。特に②が重要で,この要件があるからこそ,金融機関としても経営者保証ガイドラインに基づく弁済計画を認めるメリットがあるのです。

  1. 金融機関に対して誠実に弁済を行い,財務状況等必要な情報を適時適切に開示してきたこと
  2. 破産して配当を行った場合よりも多くの債権回収が見込めるなど,弁済計画に経済的合理性があること
  3. 保証債務の一部免除を要請する場合には,保証人が自分の資力に関する情報を正確に開示し表明保証を行うとともに,支援専門家からの報告が必要となること

また,経営者保証ガイドラインを利用する場合,主たる債務者である会社とともに準則型私的整理手続きの中で一体的に解決する方法や,保証債務のみ特定調停等の準則型私的整理手続きの中で解決する方法があります。

準則型私的整理とは,債権者と債務者の完全任意の交渉ではなく,中立公正な第三者を介して一定のルールにのっとり債務を整理していく方法のことです。

2.2経営者保証ガイドラインを利用するメリット

経営者保証ガイドラインを利用するメリットとしては次のようなものが考えられます。特に今回の記事のテーマからすると,③が重要です。

  1. 破産のように財産の管理処分権を失わない。
  2. 保証人は信用情報機関に登録されない。このため,会社代表者は新たな事業にすぐに挑戦することができる。
  3. 破産の場合自由財産だけしか手元に残らないが,インセンティブ資産として華美でない自宅や一定期間の生計費に相当する額を残すことができる。
  4. リスケのみならず,保証債務の一定額について減免を求めることができる。
  5. 任意整理と同様,法的整理に比べれば手続は柔軟であり,ある程度密行性を保てる。

③ですが,具体的に述べると,自宅がオーバーローン物件(物件の時価額よりも住宅ローンの残額が大きい物件)の場合,住宅ローン債権者以外の金融機関にとって自宅は無価値なので,特に問題となることなく自宅を残すことができます。オーバーローンでない場合ですが,物件の評価額,経営者の誠実性,会社の支払いが困難となった経緯等様々な事情を考慮して,「華美ではない」と債権者が納得してくれれば自宅を残すことができます。

2.3経営者保ガイドラインのデメリット

経営者保証ガイドラインのデメリットとしては次のようなものがあります。

  1. 任意整理と違い一定のルールに従って行われるので,要件や手続を守る必要があり簡単には利用することができない。
  2. 事前調整を含めて対象債権者の納得を得るための説明を尽くす必要があり,解決までに費用や時間がかかる。
  3. 債権者との間の従前の関係性等によっては合意を得ることが困難な場合がある。

準則型私的整理手続は何種類かあるうえ,要件や手続の検討が難しいので債務整理に精通した弁護士に相談して検討するのがいいでしょう。

3.民事再生手続の中で住宅資金特別条項を利用する方法

資産が乏しいために,住宅ローン以外の債務について大幅な減免をしてもらわなければ弁済の継続が困難であるときや,従前の履行状況が悪いなどの理由により債権者が任意に弁済計画案に合意してくれる見込みが低かったりする場合には,法的整理手続きを検討していく必要があります。

自宅を守るためには,法的整理手続きの中でも,再建型の民事再生手続を選択し住宅資金特別条項を利用していく必要があります。住宅資金特別条項は,民事再生の中でも,将来において反復継続して収入を得る見込みがあり,住宅ローン等の一定の債務を除いた債務の総額が5000万円以下の個人債務者が利用できる個人再生という手続の中で利用されることが多いです。そこで以下では,個人再生を前提として説明していきます。

3.1個人再生手続及び住宅資金特別条項の概要

個人再生では,住宅ローン以外の債務を原則5分の1にまで圧縮することができ,その余の債務額を免除してもらうことができます。5分の1に圧縮した債務については,3~5年かけて分割弁済するという再生計画を立てることができます。

再生計画案は,債権者の書面決議に付されますが(給与所得者等再生の場合には決議も不要),書面決議では,債権者全員の同意がなくても,反対多数とならなければ可決されます。その後裁判所で再生計画が認可されれば,以後それに従って弁済をしていくことになります。

住宅資金特別条項とは,住宅ローンを抱えて経済的に破綻した個人債務者が,生活の基盤たる自宅を手放さずに生活の再建ができるように定められたものです。住宅ローンの弁済期限の繰り延べや,再生計画期間内の元本返済の一部猶予等を要請することができますが,住宅ローンの減免は認められません。

3.2個人再生のメリット

個人再生手続のメリットとしては次のとおりです。

  1. 破産のような資格制限により失職することがない。
  2. 法定多数の同意に基づき,弁済計画案を強制的に認めさせることが可能である。
  3. 手続中財産の管理処分権を失うことがない(自宅・自動車・生命保険等)。

3.3個人再生のデメリット

一方で個人再生のデメリットは次のとおりです。

  1. 全債権者を巻き込むことになるので,信用棄損の度合いが大きい。信用情報登録機関に登録される年数も10年程度となる。
  2. 手続の密行性が確保されず,他人に個人再生をしたことを知られる危険がある。
  3. 任意整理や自己破産と比べて,費用が高額になりがちで手続も複雑で長期化しやすい。

4.リースバックを利用する方法

個人再生を利用しても弁済の継続が難しいという状況になると,自己破産を選択するしか方法がなくなってきてしまいます。自己破産手続で自宅がある場合には,基本的に管財事件となり債務者の財産の管理処分権は管財人に移行することになります。したがって,自己破産の場合,管財人から自宅を任意売却の方法により買い戻すことができなければ,自宅は処分されてしまうのが原則です(不動産の評価額を住宅ローンの残額が大きく上回っている場合には,資産価値がないものとして同時廃止となる場合もあります)。

同時廃止と管財事件の違いについては別記事参照

自宅に住み続ける方法として所有権は失いますが,競売にかけられる前に金融機関の承諾を得て不動産業者に自宅を任意売却したうえで,同不動産業者から自宅を賃貸してもらう方法があります。これはリースバックと呼ばれる方法です。

しかし,リースバックは,投下資本の回収のためにその地域の家賃相場に比べて高額な家賃が設定されることが多いです。そのため,自己破産手続により債務を免責してもらったにもかかわらず,再び経済的に破綻する事態に陥る危険性があります。また,リースバック業者との間で将来的に自宅を買い戻すことが前提となる契約を締結させられるため,破産管財人が認めないこともあります。

自己破産しか選択肢がない場合には,自宅を処分し自身の経済状況にあった場所に移住することも経済的更生のためにはやむを得ないかもしれません。

5.まとめ

以上,自宅を守りながら選択することができる債務整理の方法を,場合分けして解説してきました。重要なことは,冒頭でも記述しましたが,借金の返済が少しでもきつくなってきたら,できるだけ早期に弁護士に相談しアドバイスを求めることです。

弊所では倒産案件を多数取り扱ってきた経験値がありますので,専門的知見から的確なアドバイスをさせていただくことが可能です。借金問題で悩まれている方はぜひ一度ご相談ください。

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