2023年4月から適用開始 中小企業でも月60時間超えの残業代が5割増しに

大企業は,10年以上前から労働基準法改正により,月60時間を超える残業に対し,5割増し以上の割増賃金を支払ってきました。これに対し,中小企業は準備期間として当面の間その適用を免れてきました。

しかし,政府の働き方改革に伴う労働基準法の改正により猶予措置が廃止されることになり,2023年4月1日からは,ついに中小企業を含む全企業に対し,月60時間を超える法定時間外労働に関し割増率50%以上の割増賃金を支払う義務が生じることになりました。

そこで,この記事では,改正後の残業代計算のルールを確認するとともに,中小企業に求められる対策を解説していきたいと思います。

1.残業代未払いによるリスク

まず,残業代を適切に支払わないことによるリスクを確認しましょう。残業代を適切に支払わずに放置していると,従業員のモチベーションが低下し離職率が増加するだけでなく,次のようなリスクにつながります。

1.1従業員から未払い残業代の支払いを求め裁判を起こされるリスクがある

裁判を起こされると裁判費用がかかるだけでなく,遅延損害金や付加金も請求される可能性が高いため,非常に高額な支払い命令を受けることになりかねません。

遅延損害金は,退職前は年3%ですが,退職労働者の場合は年14.6%に達します。残業代でもめる場合,相手方従業員は退職後のことが多いので,裁判が長引くと高額な遅延損害金を支払わされる危険があります。

付加金とは,裁判所が使用者の残業代不払いの態様や労働者の不利益などから,一種の制裁として,最大で未払い残業代と同額の支払いを命じるというものです。つまり,未払い残業代の裁判を起こされ付加金まで認められてしまうと,2倍の残業代を支払わされる危険があるということです。

1.2労働基準監督署の調査や是正勧告を受けるリスクがある

従業員が残業代を払ってくれないといって労働基準監督署に申告すると,労働基準監督署から書類提出や立ち入り調査を求められたりする危険があります。

1.3刑事罰を科せられたりするリスクがある

また,残業代不払いが悪質であると判断されると,6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に科せられる危険もあります(労働基準法119条1項)。

2.労働基準法改正後の残業代計算ルール

2.1割増賃金の支払い対象

労働基準法37条には,使用者は,労働者に対し,①労働基準法の上限を超えて時間外労働をさせた場合,②休日労働をさせた場合,③深夜労働をさせた場合には,通常支払われる賃金に割増率をかけて計算した割増賃金を支払わなければならないと定められています。それでは,それぞれ順番に見ていきましょう。

2.2法定時間外労働について

  1.  労働基準法では,1日の労働時間は8時間まで,1週間の労働時間は40時間までと定められており,これを超える労働時間を契約上定めることはできないとされています(労働基準法32条,13条)。

    この労働基準法の上限時間を超える時間外労働をさせた場合,法定時間外労働として割増賃金の支払いが必要となってきます。

    なお,例外的に上限時間を超えて適法に時間外労働や休日労働をさせることができるのは,次の2つの場合だけです。

    ①災害や突発的な業務事故,公務などによりどうしても臨時に働いてもらう必要がある場合(労働基準法33条)

    ②使用者と労働者の過半数代表との間の労使協定で,一定の場合に時間外労働・休日労働をさせることができると定めた場合(労働基準法36条)

  2.  法定時間外労働の割増率
     法定時間外労働の割増率は,ひと月の時間外労働の合計時間数に応じて,次の通り3段階に分かれます。

    ①1ヶ月の時間数が45時間以内の場合
     割増率は25%
    ②1ヶ月の時間数が45時間を超え60時間以下の場合
     割増率は25%よりも高く定める努力義務あり
     ※努力義務というのは,罰則をもって強制することまではしないが,規制した法の趣旨に沿った行動をとることを求めるものです。
    ③1ヶ月の時間数が60時間を超える場合
     最初に述べた通り,中小企業を含めた全企業は,従来割増率が25%だったところ,今後は50%以上の割増率で残業代を支払う必要があります。

  3.  なお,1日8時間を超える時間外労働は把握しやすいですが,1週40時間を超える時間外労働については,つい見落としてしまう場合があるので注意が必要です。  例えば,労働契約上の労働時間の定めが1日8時間の人が月曜日から土曜日まで出勤し毎日8時間働いた場合,1日8時間の規制には違反しませんが,月曜から金曜までで既に週40時間勤務したこととなるため,土曜日の8時間の労働は,全て法定時間外労働として割増賃金の支払い対象となります。

2.3所定時間外労働(法内超勤)について

勘違いしやすいものとして,法内超勤と呼ばれるものがあります。法内超勤とは,法定労働時間の上限(1日8時間,1週40時間)には違反していないが,会社が就業規則等で定めた所定労働時間を超過した場合の残業のことです。

法内超勤に対しては割増賃金を支払う必要はありませんが,就業規則等労働契約により定まる通常の労働時間1時間当たりの賃金を支払う必要があります。

具体的に説明をすると,就業規則等で会社の所定労働時間が7時間,1時間当たり1500円の賃金をもらっている人がいたとします。会社が,この人を残業させて9時間労働させたとしても,法定労働時間の上限に違反していない1時間分については,割増しした残業代を支払う必要はなく通常の1500円を支払えば足りることになります。8時間を超える部分については,前述のように25%割増しの1875円の賃金を支払う必要があります。

2.4休日労働について

  1.  労働基準法では,週に1回以上(もしくは4週を通じて4日以上)労働義務から解放される休日を与えなければならないと定めています(労働基準法35条)。その休日にあたる日に労働させた場合が,休日労働として割増賃金の支払い対象となります。

    なお,週休二日制をとっている会社で,そのうち1日を労働日と定め出勤させたとしても,法定時間外労働の問題は生じますが,1日は休日を与えていることになるため休日労働とはなりません。

  2.  休日労働の割増率
     法定休日に労働させた場合の割増率は35%以上です。

2.5深夜労働について

  1.  深夜労働とは,22時から翌日の5時までの間に労働した場合のことであり,割増賃金の支払い対象となります。
  2.  深夜労働の割増率
     深夜労働の割増率は25%以上となります。

  3.  深夜労働と法定時間外労働・法定休日労働が重なる場合
     休日には労働義務がないため,法定時間外労働と休日労働が重なることはありませんが,深夜労働と休日労働,深夜労働と法定時間外労働は重複して割増率が算定される場合があります。重複して適用される場合には,割増率が合算されることになります。

    (例)

    ・法定休日に深夜労働をさせた→60%割増(35+25)
    ・月の時間外労働が60時間を超えているときにさらに深夜に時間外労働をさせた→75%割増

3.中小企業が取ることができる対策

3.1代替休暇制度を利用する

労働基準法37条3項には,労働者の過半数代表との労使協定により,1ヶ月の法定時間外労働が60時間を超える労働者に対し,割増賃金の支払いに代えて代替休暇を与えることを定めておけば,現実に付与された代替休暇に対応する時間の労働について,通常の割増率に付加された割増率(25%以上)の支払分を免れることができると定められています。

会社はこの代替休暇の制度を利用することで,60時間超えの残業に対する50%以上の割増賃金の支払いを免れることができるため,残業代の発生を抑制することができます。一方で,労働者は,有給休暇を取得できるため,健康を維持しワークライフバランスを保つことができます。

なお,代替休暇制度を利用するためには,前述のように労使協定で代替休暇の時間の算定方法や代替休暇を与えることができる時期等を定める必要があります。詳しいところは弁護士に相談する等して進めてください。

また,あくまで50%の高割増の残業代の支払いを免れることができるだけであり,通常の割増率である25%の部分の支払いは免れないので注意が必要です。

3.2就業規則の改訂作業を進める。

1ヶ月60時間超えの法定時間外労働に対する割増率50%の割増賃金の支払いの定めは,就業規則の絶対的記載事項ですので明記しておく必要があります。

また,前述の代替休暇制度についても,休暇に関するルールですので就業規則の絶対的記載事項となっており,導入の際には就業規則に定めを置く必要があります。

3.3事業場における実際の労働時間の把握に努める

最初に述べた通り,残業代を適切に支払っていないと,会社は大きな経済的デメリットを被る危険があり,場合によっては刑事罰を科せられる危険もあります。

したがって,事業場における労働者の労働時間の実態を把握し適切に管理することは非常に重要になってきます。

ただ状況によって,賃金を支払わなければならない労働時間に当たるのか否か判断が微妙な場合も多数あるため(例えば,従業員が自主的に早く来て作業をしていた場合,持ち帰り残業等),念のため弁護士に確認を取られたほうがよろしいかと思います。

4.まとめ

このような残業代に関するルールは,従業員が一人でもいらっしゃる企業であれば十分に対策をしておく必要がある問題と言えます。2023年4月1日から,中小企業でも月60時間超えの残業に対する5割増しの割増賃金の支払いのルールが適用されるようになりましたので,これを期に,社内の労働時間管理や就業規則等の見直しを進めていくのがよろしいのではないでしょうか。

ガイア総合法律事務所では,労務問題を専門とする弁護士が在籍しており,残業問題を含む労使間のトラブルの解決や予防に力を入れて取り組んでおります。

労働関連の法律は改正の多い分野ですので,経営者の方が通常業務を行いながら適時適切に対応していくことは非常に困難であると思います。残業問題を含む労使間トラブルで悩まれていらっしゃる方は,ぜひ一度ガイア総合法律事務所までご相談ください。紛争を未然に防ぐために全力でサポートさせていただきます。

 

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