財産分与を進めるためのポイント
離婚の際,夫婦が婚姻期間中に築き上げてきた財産を公平に分配することを財産分与といいます。相手方に適切な財産分与を求めていくためには,どういった財産をどういった基準で分配するのか,また財産分与を求めていく手続はどうしたらいいのか等を知っておくことが重要です。
この記事では,財産分与の決め方や請求するときの手続等のポイントを解説していきます。
1.財産分与の意義
財産分与は,夫婦が婚姻期間中に築き上げてきた財産を清算することで,離婚した夫婦間に不当な経済的格差が生じることを防止することを目的としています。このように清算的要素が強いものであるため,仮に一方配偶者が離婚となる事実関係を作り出した有責配偶者であったとしても,財産分与請求権を失わないとされています。
財産分与には,清算的要素のほかに,離婚後の経済的弱者に対する扶養料の支払いという扶養的要素,相手方の有責な行為により離婚を余儀なくされたことに対する慰謝料的要素という側面もありますが,これらは補充的に考慮されるにすぎません。
なお,実質的に夫婦同然の共同生活を営んでいると評価できる内縁関係では,内縁解消の際に財産分与請求権が認められています。
2.財産分与の対象となる財産
財産分与の対象となるのは,①夫婦共有名義となっている財産だけでなく,②実質的共有財産(夫婦どちらか一方の名義になっているものの,婚姻期間中に夫婦の協力によって形成された財産)も含まれます。このため,家や車などが夫の名義になっていても,婚姻中に購入したものであれば財産分与の対象となります。
これに対し,一方が相続した財産等名実ともに夫婦の一方が所有する財産は,特有財産とされ財産分与の対象とはなりません。
なお,夫婦のいずれに属するか明らかではない財産は共有財産であると推定されます(民法762条2項)。
3.財産分与の範囲や評価の基準時
夫婦間の協力により形成されてきた共有財産を公平に分配することを目的としていますので,財産分与の対象となる共有財産は,夫婦の協力関係がある別居時までに存在した財産であることが原則とされています。そのため,別居時に夫婦の一方が無断で財産を持ち出してしまったような場合,その持ち出した財産は現存するものという前提で財産分与額を考えていきます。
これに対し,分与対象となった財産の評価基準時は,裁判時であるとされるのが一般的な理解です。これは,財産分与が離婚時における夫婦間の財産の公平な清算を目的としているためです。別居後に不動産や株式の価格が高騰したような場合には,変動後の評価額を基準として分与額を算定していくことが公平であると考えられています。
4.清算割合の決定
財産分与の清算割合については,財産形成・維持についてそれぞれがどれだけ貢献していたかを考慮し決定しますが,基本的には2分の1になります。従前の裁判例では夫が高額所得者で妻が専業主婦のような場合に妻の清算割合を低めに見積もるものがありましたが,現在ではそういった場合でも妻の内助の功により夫は働くことができていたものと考え,2分の1と考えるのが実務となっています。
実務では,まず対象となる財産を確定した後,それぞれの所有名義で分けて夫婦双方の純資産額を求め,その合計額の半額(清算割合2分の1のとき)が双方にいきわたるべき分配額であるとして清算を行います。
5.具体的な財産分与の検討
では,上記のような財産分与の決定方法を踏まえたうえで,個別の財産で具体的にどのように考えるのか,いくつかみておきます。
5.1不動産の分与方法
不動産の裁判時の時価額は,不動産業者の査定書によって評価します。一軒家やマンションで住宅ローンが残っているときには,その不動産評価額から住宅ローンの残額を引いた額が分与対象となる不動産の価格となります。
ローン返済途中の不動産の多くはオーバーローン(不動産の分与時の時価額より住宅ローンの残債務額のほうが大きい不動産)となっています。オーバーローン不動産だけが資産で,それ以外にみるべきプラスの資産がないようなときは分与すべき資産がないと考えられますので,財産分与請求をすることができません。
5.2不動産購入資金の頭金を特有財産から支出していた場合
不動産の購入に際し,夫婦の一方が婚姻前から持っていた預貯金を頭金の支払いにあてたり,夫婦の一方の親族から頭金の支払いを援助してもらったりする場合があります。こういった場合頭金の支払いは夫婦の一方の特有財産からなされたものと考えるが一般的です。
その場合不動産はどのように財産分与すればいいのでしょうか。具体例を使って説明しますと次のようになります。
具体的事例として次のようなケースを想定してみましょう。
- 不動産購入価格5000万円,そのうち頭金1000万円を夫の特有財産から支払った
- 現在の不動産の時価額は3000万円,住宅ローンの残高は1000万円とします。
このケースでは,上記のようにローン残高を現在の不動産評価額が上回っていますので,分与すべき不動産の価値は3000万-1000万=2000万円となります。
しかし,そのうち頭金として夫の特有財産が使用されていますので,その寄与度を計算し財産分与の対象から除外する必要があります。寄与度は5000万円のうちの1000万円なので5分の1となります。したがって,分与の対象とされる共有財産としての不動産の価格は2000万の5分の4である1600万円となります。
清算割合は2分の1が原則なので,夫婦双方は800万円をそれぞれ取得するということになります。
5.3預貯金の分与方法
原則として別居時の預貯金残高を分与の対象とします。
夫婦どちらかが独身時代に積み立てていた貯蓄は特有財産となります。
しかし,結婚後に同口座から婚姻生活の費用の入出金が繰り返されているような場合には,その中で結婚前の預金残高は費消されたか一方がその維持形成に貢献してきたとみることができますので,夫婦の共有財産として財産分与の対象となる可能性があります。
5.4子の名義で取得した財産の分与方法
将来の子供の進学等に備えて子の名義でしていた預貯金,学資保険などは,夫婦共有財産にあたるとして分与対象となることが多いです。
子のお年玉を貯めてあげているだけのような場合には,子の特有財産として財産分与がなされないこともあります。
5.5退職金の分与方法
既に受給済みの退職金は,同居期間のみを寄与期間と考えて分与額を算定することになります(同居期間以外の部分については特有財産となる)。例えば,勤続年数30年,同居期間15年の場合には退職金のうち分与対象となる共有財産部分は半分という計算です。
将来の退職金は,まず分与の対象となるのかという問題があります。退職まで勤務するかどうかわからないうえ,将来支給制限事由(懲戒解雇がなされたときや他企業において競業行為を行った場合に退職金を不支給とするような条項)に該当し支払われなかったりする場合もあり,将来退職金を受け取れるかどうかは不確定なことが多いと言えます。そのため,将来の退職金は支給される高度の蓋然性が認められない限り分与の対象とはならないとされています。
実務上は,定年まであと数年であり退職給付金額が判明している場合に限り,分与対象とする例が多いです。また,定年退職金額は分与の対象とはならないが,別居時に自己都合退職したらいくら支給されるかを試算してそれを分与対象とすることが多いです。
5.6債務関係
夫婦共同生活の中で必要な支出のために負担した債務について,夫婦それぞれの債務発生に対する寄与の程度に応じて債務の内部的負担割合を定めることはできます。しかし,当事者間で履行の引き受けがなされたという意味しか持たず,債権者が拘束されるものではないので,実効性に乏しいと考えられます。
なお,夫婦の一方が浪費やギャンブル等で個人的に作ってしまった債務等については,夫婦生活に必要な支出ではないので当然分与の対象とはなりません。
6.財産分与を請求していく手続
6.1協議により割合や配分方法を決定する
財産分与については,民法768条2項に記載されているように,まずは当事者間の協議により進めていきます。
協議の場合,清算割合や分与方法について自由に定めることができます。また,離婚自体を決めた後にゆっくり財産分与の話し合いをすることもできます。
協議により財産分与の内容が定まった場合には,合意内容を書面にしてできれば執行認諾文言付の公正証書にしておきましょう。支払いを分割払いにして途中で支払いが滞った場合,裁判手続きを経ることなく相手方の財産に対し強制執行をすることができるようになります。
6.2協議がまとまらない場合には調停等の裁判手続き
当事者間の話し合いでまとまらない場合には,家庭裁判所に財産分与の調停を申し立てます。調停が不調の場合には,直ちに審判に移行することになり,裁判所が諸般の事情を考慮して財産分与の内容を決定します。
離婚の問題の附帯処分として財産分与の内容が争われることもあり,その場合には,離婚調停や離婚訴訟の中で財産分与の内容を決定していくことになります。
いずれにせよ中立公正な裁判所を介した手続きとなる場合には,財産分与の対象となる財産の評価額に関する資料や特有財産であることを示す資料等の証拠関係を的確にそろえて,適切な財産分与がなされるように主張をしていく必要があります。
7.まとめ
以上みてきたように,適切な財産分与を求めていくためには,対象財産の範囲を確定したり適正な評価額を示したりするための証拠をそろえ,それぞれの財産ごと的確な主張をしていく必要があります。ときには,相手方が共有財産となるべきものを隠したりする可能性もあるため,必要な調査手続きを踏んでいく場合もあります。
ガイア総合法律事務所では,男女問題に力を入れており,こういった財産分与の問題を数多く扱ってきた経験があります。当事者である夫婦のみで話し合いを進めようとしても,感情的になってしまいなかなか思うように進まなかったり,離婚問題が長引いてしまったり,不当な条件で合意してしまったりする危険性があります。
離婚問題や財産分与のことでお困りの方は,ぜひ一度弊所までご相談いただければと存じます。