交通事故の被害者が知っておくべき過失相殺のポイント

交通事故の事案で,加害者側が100%悪いという結論になることは稀です。被害者にも事故の責任があるとして,一定の割合で損害額が減額されることがほとんどです。

この記事では,過失相殺の件でよくご相談いただく内容を踏まえ,架空の事例を設定して過失相殺の意義や,過失相殺に関連する交渉を有利に進めていくためのポイント等を解説していきます。

1.法律相談内容

次のような架空の相談事例を思い浮かべてみましょう。

Aさんは,夜中仕事から帰宅するため車を運転していました。すると,道路外のコンビニの駐車場から,不意にBさんの車が左折進入してきたため,急ブレーキをかけましたがよけきれず衝突事故となってしまいました。

Aさんは,幸い軽い捻挫で済みました。また,Bさんも事故現場で「自分が一方的に悪かった。すべてこちらが賠償します」と言ってくれました。そのため,Aさんは人身事故として届け出ることはやめ,警察には物件事故として報告することにしました。

しかし,その後Bさんの保険会社の担当者から,「Bさんは駐車場からゆっくり道路に出たところ,右から走行してきたAさんの車と衝突することになったと言っている。過失割合は示談で解決するのであれば2:8で考えたい」との連絡が入りました。Aさんはびっくりして,突然出てきたBさんが悪く自分には過失はないと主張しましたが,保険会社の担当者は聞き入れてくれませんでした。

過失割合に納得がいかないAさんは,自分で修理費を払いたくないのでそのまま車を修理せず放置し,代わりにレンタカーを借りました。保険会社との交渉はその後も難航し,既に2ヶ月近くレンタカーを借りている状態となっています。

2.交通事故の過失相殺とは

交通事故で双方の車が動いているような場合,事故の発生や損害の拡大について,被害者側にも何らかの不注意や落ち度が認められることがほとんどです。そういった場合に,被害者の損害すべてを加害者に負担させることは,損害の公平な分担という不法行為制度の理念に反することになります。

そこで,民法722条2項には,裁判所が被害者側のそういった落ち度や不注意を考慮して,被害者の損害を一定の割合で減額することができるという規定を設けています。これがいわゆる過失相殺と呼ばれるものです。

架空の相談事例では,確かにBさんの車が突然飛び出してきたわけですが,Aさんも路外から出てくる車があることを想定して一定の注意をはらって減速する等しておけば,衝突事故を防ぐことができたかもしれません。そのため,Aさんの請求できる損害額については,一定の割合で過失相殺がなされることになります。

3.過失割合は誰が決めるのか

では,過失相殺がなされるとしたとき,当事者間の過失割合は誰が決めるのでしょうか。

基本的には,加害者側の保険会社との示談交渉を進めいくので,過失割合は当事者間の協議で決定していくことになります。

当事者間で話し合いがつかない場合には,民法722条2項に記載されている通り,最終的には裁判所が,事故の客観的状況をもとに当事者双方の過失を比較して,過失割合を決定します。

過失相殺については,ある程度裁判所の自由裁量にゆだねられています。そのため,裁判所は,状況によっては,当事者が過失相殺の抗弁を主張している場合でも,過失相殺をしないと結論づけることもできます。もっとも,当事者への不意打ちとなることを防止するため,当事者には,過失相殺の根拠となる「過失を基礎づける具体的事実」について主張立証責任があるとされるのが一般的理解です。

4.具体的な過失割合の定め方

裁判所が過失割合を自由裁量によって決定するとしても,同じ事故類型でありながら裁判官によって過失相殺の判断が全く異なるようでは,法的安定性や公平な裁判の観点から望ましくありません。また,過失相殺の判断に幅がありすぎると,いたずらに争点を増やすことになってしまい,当事者に無駄な主張立証をさせることが多くなり,裁判が長期化してしまうことになります。

そこで,従前からの裁判例等を踏まえて,同一類型の事故についてある程度画一的な過失割合の判断ができるように,別冊判例タイムズの中で過失相殺基準表が発表されています。

同基準を参考にして,実務では過失割合を決定していくことが多いですが,注意しなければならないのはあくまで基準は例示列挙に過ぎないということです。基準に載っていない事実でも,事故の損害の拡大に影響しているような場合には,当然過失相殺の際に考慮されることになります。基準が独り歩きしないように注意しましょう。

4.1具体的事例でみる過失相殺のやり方

上記事例についてみていくと,道路交通法25条の2第1項では,車両の交通を妨げる態様での路外からの進入行為が禁止されていますので,過失割合の点でBさんはAさんに劣後することになります。そのため,判例タイムズ148図から,基本的なAさんとBさんの過失割合は2:8であるということになります。

また,Bさんは急に路上に出てきたということであるため,「徐行なし」あるいは「著しい過失」があったものと考えられますので,Bさんの過失は10%ほど加算修正されます。したがって,上記事例における過失割合は1:9とするのが妥当と言えます。その他にも基本過失割合を修正すべき要素があれば検討することになりますが,今回の事例では見当たりません。

過失割合は,道路交通法等法令に定められた規定,事故発生時の時・場所・周囲の環境,事故発生の予見可能性・回避可能性等の要素を検討して決定します。事故の損害拡大に結び付くような事実関係であれば,たとえ基準に載っていないものでも過失割合を決めるにあたって考慮していくことになります。

今回の事例では見受けられませんが,例えば「自動車運転中にペットを檻に入れていなかったためペットが車内で暴れた」,「シートベルトやヘルメットをしていなかったので大怪我につながった」等といった事情は,判例タイムズの基準表には載っていませんが,損害の拡大につながったのであれば過失相殺で考慮されます。

4.2自賠責保険における過失減額

自賠責保険は,交通事故被害者の早期の保護・救済を目的としているため,過失相殺について独自の基準を設けています。具体的には,傷害事案では,被害者に7割以上の過失が認められる場合に,重大な過失による減額として損害額が2割減額されますが,7割未満の過失の場合には損害額が減額されることはありません。

5.過失相殺に関連する交渉を有利に進めていくポイント

Aさんの過失割合は本来1:9であるはずですが,上記事例のように保険会社の担当者との交渉がうまくいかないと,いつまでたっても問題が解決しなくなってしまいます。そこで,過失割合に関連する交渉のポイントを確認しておきましょう。

5.1過失割合が問題となる事案では人身事故の届け出をする

過失割合は,事故状況を客観的に判断して決定します。この点,事故の客観的状況を把握するときに特に重要となってくる証拠が,警察が事故現場で実施した実況見分の結果が記載された実況見分調書です。

実況見分は人身事故として届け出ていないと実施されません。物件事故として届け出ていると,物件事故報告書と呼ばれる簡単な衝突状況に関する概略図しか作成されないため,後日過失割合でもめても詳細な事故状況を立証することは困難となってしまいます。

人身事故とすると,被害者側にも交通法規違反があると認められる場合,違反点数がついてしまうというデメリットはあります。しかし,事故状況を立証する資料として警察の実況見分調書は非常に強力であるため,過失割合でもめそうであれば優先して入手すべき証拠であると言えます。

なお,人身事故の届け出は,事故からあまり日をおかずに行うようにしましょう。事故から時間がたちすぎてしまうと,当事者の記憶があいまいとなってしまったり,事故現場の痕跡もほとんどなくなってしまったりして,実況見分を実施することは不可能であると断られることがありますので注意しましょう。

上記事例でAさんは,軽い捻挫でありBさんも謝ってくれたので物件事故として届け出たままにしていますが,過失割合が争いとなっていることは明らかですので,早急に人身事故の届け出に切り替える必要があると言えます。

5.2過失割合でもめていても自動車の修理は早急に進める

過失割合の交渉でもめていても自動車の修理は早急に進めていくことが重要です。車両の損傷状況も事故状況を証明する客観的証拠となるため,事故直後の損傷状況を保全しておく必要があるからです。事故から修理まで長期間空いてしまうと,本当に交通事故で発生した損傷なのか争われる危険性もあります。

また,代車を使用できる期間にも制限があります。交通事故で物損として代車使用が認められるのは,修理や買い替えに要すると見込まれる相当期間です。実際に修理や買い替えをすることができるまでに要した期間ではありません。

「相当期間」を判断する際には,修理や買い替えそれ自体に要する期間のほかに.保険会社との交渉が過失割合や時価額の評価等の点で難航したことも考慮されます。しかし,それでも修理の場合で3週間程度,買い替えの場合で1ヶ月強といったとことではないかと考えられます。

上記事例でAさんは,過失割合に納得がいかないことから,修理工場に車を搬入せず,レンタカーを2ヶ月近く借りている状態ですが,早期に修理工場で見積もってもらい修理に着手すべきです。また,残念ながらレンタカー費用の一部は自己負担となることを覚悟しなければならないでしょう。

5.3保険会社の過失割合の提案に客観的事故状況から反論する

保険会社の過失割合に関する提案は的を射ていることもありますが,実際の事故現場の道路状況を正しく踏まえていないものや,中には道路交通法等の交通法規に関する理解が不足していると考えられる提案を平気で行ってくることも多々あります。

保険会社の提案は,あくまで意見の一つにすぎないのでるから,感情的ならず交通事故の具体的な状況を踏まえ冷静に反論をしていくことが重要です。必要に応じて弁護士に相談してアドバイスを求めましょう。

また,保険会社との交渉では物損と人損を分けて議論しますが,過失割合について納得がいってないのであれば,安易に物損の示談契約をしてはいけません。物損の示談契約における過失割合の合意に,基本的に裁判所は拘束されるものではありません。

しかし,保険会社は人損も同様の過失割合で解決する方向性を譲らないことがほとんどですので,物損では2:8で合意したが,人損では1:9の過失割合を主張したいといっても保険会社は受け入れません。最悪そのまま裁判になってしまう可能性が高いです。

6.まとめ

弊所ではこういった交通事故の過失割合に関連する交渉を多数扱っており,その中で有利な結果を勝ち取ってきた実績があります。

ほとんどの人は交通事故にあうのは初めてのはずです。怪我の治療をしていきながら,保険会社の担当者と連絡を取り合って適切な交渉を進めるのは非常に困難です。また,交通事故は事故直後から気を付けなければならないことがいくつもあるうえ,多くの書類を集めたり作成したりしなければなりません。

ガイア総合法律事務所では交通事故案件に力を入れており,数多くの案件で示談金を増額してきた実績があります。また,保険会社との交渉の肝所を押さえているため,適時適切な対応をアドバイスさせていただくことができます。

交通事故にあわれて保険会社への対応や交渉の進め方等に悩まれている方は,ぜひ一度弊所までご相談ください。

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